題名: | 陪張丞相自松滋江東泊渚宮 |
作者: | 孟浩然 |
放溜下松滋,登舟命檝師。詎忘經濟日,不憚沍寒時。洗幘豈獨古,濯纓良在茲。政成人自理,機息鳥無疑。雲物凝孤嶼,江山辨四維。晚來風稍急,冬至日行遲。臘響驚雲夢,漁歌激楚辭。渚宮何處是,川暝欲安之。 | |
英譯: | 暫無英譯內容 |
日譯: |
流れのままに松滋江を下ることになり、われわれは乘りこんで、船頭に出發を命じた。張丞相は今は荊州長史の職にあるが、宰相時代の國をうれい民をねぎらう精神にすこしもかわりがない。民情視察のために、この凍てつくような寒さをものともせず出かけられるのだ。むかし鶴が頭成をくわえて水のほとりに落としたので、それを洗いきよめて鶴といっしょに飛んで行ったという楚の陸通の話も、あながち昔話といわれない。われわれも同じ心境である。それに、楚の屈原に對して、通りがかりの漁父が水が澄んでいたら纓(かんむりのひも)をあらえ、水がにごっていたら足を洗え、と勸告したというが、その會合の場所はまさしくここらあたりであっただろう。 張丞相の政治は行き届いたもので、人民が自然におさまるように段どりをつけられるだけで、干渉的なものではない。いたずらに術策を弄することもなく、鳥でさえ疑う心がなく舟に近づいてくるのも政治を象徴しているように見える。 雲のすがたは、はなれ島にじっと停滞して動かず、山も川も四方のすみずみまではっきり澄んで見える。夕方になって風は次第にきびしくなって塞い。冬至のことで、日あしがのろいような氣がするのは、どうしたものか。雲夢澤のあたりには狩獵のひびきがさわがしく、漁父たちの歌は、むかしの楚辭の激しい悲調を帶びているように聞こえる。渚宮というのは、どのへんになるのか。もう川面は薄暗くなってしまった。この舟は、いったいどこへ向かっているのだろうか。
溜(りう)に放(はな)って松滋(しょうじ)を下(くだ)らんとし、舟(ふね)に登(のぼ)って楫師(しふし)に命(めい)ず。寧(なん)ぞ經濟(けいざい)の日(ひ)を忘(わす)れんや。沍寒(ごかん)の時(とき)を憚(はばか)らず。幘(さく)を洗(あら)ふは豈濁(あにひと)り古(いにしへ)のみならんや。纓(えい)を濯(あら)ふこと良(まこと)に玆(ここ)に在(あ)り。政成(せいな)りて人(ひと)自(おのづか)ら理(をさ)まり、機(き)息(や)んで鳥(とり)疑(うたが)ふこと無(な)し。雲物(うんぶつ) 孤嶼(こしょ)に凝(こ)り、江山(かうざん) 四維(しえ)を辨(べん)ず。冬至(とうじ) 日(ひ)の行(ゆ)くこと遅(おそ)し。獵響(れふきゃう) 雲夢(うんぼう)を驚(おどろ)かし、漁歌(ぎょか) 楚辭(そじ)を激(げき)す。渚宮(しょきゅう) 何(いづ)れの處(ところ)か是(ぜ)なる。川瞑(かはくら)くして安(いづ)くにか之(ゆ)かんと欲(ほつ)する。 溜に放って松滋を下らんとし、舟に登って楫師に命ず。寧ぞ經濟の日を忘れんや。沍寒の時を憚らず。幘を洗ふは豈濁り古のみならんや。纓を濯ふこと良に玆に在り。政成りて人自ら理まり、機息んで鳥疑ふこと無し。雲物 孤嶼に凝り、江山 四維を辨ず。冬至 日の行くこと遅し。獵響 雲夢を驚かし、漁歌 楚辭を激す。渚宮 何れの處か是なる。川瞑くして安くにか之かんと欲する。 |