題名: | 積雨輞川莊作 |
作者: | 王維 |
積雨空林煙火遲,蒸藜炊黍餉東菑。漠漠水田飛白鷺,陰陰夏木囀黃鸝。山中習靜觀朝槿,松下清齋折露葵。野老與人爭席罷,海鷗何事更相疑。 | |
英譯: |
Smoke curls slowly upward in these deserted mountains
after days of desolate rain.
Again the hellebore and the millet are cooked for
labourers on the land to the east.
Above the speading rice-fields a white egret stretches
its wings,
And golden orioles sing within the dark foliage of
summer trees...
I practise quietism among these solitary hills and, musing
upon the morning hibiscus$(, think upon life)$.
Under the pines I live frugally, munching dewy sun-
flower seeds,
A wild old man of the mountain, long past desire to
compete for official promotion...
Now what right have my only neighbours, the sea gulls,
to be shy of me!
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日譯: |
長雨(ちょうう)が降(ふ)り続(つづ)き人(ひと)の気配(けはい)のない静(しず)まりかえった林(はやし)に、炊煙(すいえん)がゆっくりと立(た)ち上(あが)っており、あかざをゆで、きびの飯(はん)をたいて、東(ひがし)の田(た)にそれらの食物(しょくぶつ)を運(はこ)んでゆく。雨(あめ)に煙(けむ)って薄暗(うすぐら)く広(ひろ)がる水田(すいでん)に白(しろ)いさぎが飛(と)び、盛(さか)んに枝葉(えだは)が茂(しげ)って暗(くら)く見(み)える夏(なつ)の樹木(じゅもく)に、黄色(きいろ)いこうらいうぐいすが鳴(な)き続(つづ)けている。
この山中生活(さんちゅうせいかつ)に心(じょころ)を静(しず)かに保(たも)って、朝咲(あさき)いて夕(ゆう)べにしぼむむくげの花(はな)に人生(じんせい)のはかなさを見(み)きわめ、松(まつ)の樹(き)の下(した)に精進潔斎(しょうじんけっさい)して、あおいを折(お)り取(と)って食(た)べる生活(せいかつ)をしている。この田舎(いなか)おやじであるわたしは世(よ)の人々(ひとびと)と立(た)ちまじり、すっかりその人々(ひとびと)の仲間(なかま)になりきっているはずなのに、どうしたことか、列子(れっし)に見(み)える海辺(うみべ)のかもめのように、世(よ)の人々(ひとびと)は、なおわたしを疑(うたが)って心(こころ)を許(ゆる)そうとしないのだ。
長雨が降り続き人の気配のない静まりかえった林に、炊煙がゆっくりと立ち上っており、あかざをゆで、きびの飯をたいて、東の田にそれらの食物を運んでゆく。雨に煙って薄暗く広がる水田に白いさぎが飛び、盛んに枝葉が茂って暗く見える夏の樹木に、黄色いこうらいうぐいすが鳴き続けている。 この山中生活に心を静かに保って、朝咲いて夕べにしぼむむくげの花に人生のはかなさを見きわめ、松の樹の下に精進潔斎して、あおいを折り取って食べる生活をしている。この田舎おやじであるわたしは世の人々と立ちまじり、すっかりその人々の仲間になりきっているはずなのに、どうしたことか、列子に見える海辺のかもめのように、世の人々は、なおわたしを疑って心を許そうとしないのだ。 積雨(せきう) 空林(くうりん) 煙火(えんか)遲(おそ)く 藜(あかざ)を蒸(む)し黍(きび)を炊(かし)ぎて 東菑(とうし)に餉(しょう)す 漠漠(ばくばく)たる水田(すいでん)に白鷺(はくろ)飛(とび) 陰陰(いんいん)たる夏木(かぼく)に黃鸝(こうりき)囀(さえず)る 山中(さんちゅう)の習靜(しゅうせい) 朝槿(ちょうきん)に観(かん)じ 松下(しょうか)の清斎(せいさい) 露葵(ろき)を折(お)る 野老(やろう) 人(ひと)と席(せき)を爭(おらそ)いて罷(や)むに 海鷗(かいおう)何事(なにごと)ぞ 更(さら)に相疑(あいうたが)う 積雨 空林 煙火遲く 藜を蒸し黍を炊ぎて 東菑に餉す 漠漠たる水田に白鷺飛 陰陰たる夏木に黃鸝囀る 山中の習靜 朝槿に観じ 松下の清斎 露葵を折る 野老 人と席を爭いて罷むに 海鷗何事ぞ 更に相疑う ふりつづく長雨に 人気もない林の中 立ちのぼる煙もにぶく あかざ蒸し 黍を炊いで 東の田の農夫に餉る 雨にかすむ水田には 白鷺が飛び交い 茂った夏の木の問には 黄鸝が囀る 山中に坐禅する身は 朝に咲く木槿の花に むくげ 人の世のはかなさを知り 松蔭に素齋して 露にぬれた葵を折る 世をすてた田舎翁 人と争う気もないのに なぜに海辺の鷗たち いまさら私を疑うのか 積雨(せきう) 空林(くうりん) 煙火(えんか)遲し 藜(れい)を蒸(む)し黍(しょ)を炊(かし)ぎて 東菑(とうし)に餉(しょう)す 漠漠(ばくばく)たる水田(すいでん) 白鷺(はくろ)飛(と)び 陰陰(いんいん)たる夏木(かぼく) 黃鸝(こうり)囀(て)ず 山中の習靜(しゅうせい) 朝槿(ちょうきん)に観(かん)じ 松下(しょうか)の清斎(せいさい) 露葵(ろき)を折る 野老(やろう) 人(ひと)と席(せき)を爭(おらそ)いて罷(や)む 海鷗(かいおう) 何事(なにごと)ぞ更(さら)に相疑(あい)疑う 積雨 空林 煙火遲し 藜を蒸し黍を炊ぎて 東菑に餉す 漠漠たる水田 白鷺飛び 陰陰たる夏木 黃鸝囀ず 山中の習靜 朝槿に観じ 松下の清斎 露葵を折る 野老 人と席を爭いて罷む 海鷗 何事ぞ更に相疑疑う |