題名: | 香爐峯下新卜山居草堂初成偶題東壁 |
作者: | 白居易 |
日高睡足猶慵起,小閣重衾不怕寒。 遺愛寺鐘欹枕聽,香爐峯雪撥簾看。 匡廬便是逃名地,司馬仍為送老官。 心泰身寧是歸處,故鄉可獨在長安。 | |
英譯: | 暫無英譯內容 |
日譯: |
日は高くのぼり、睡眠は十分であるが、それでもなお起きあがるのがけだるい。ささやかな住居であるが、夜具をかさねているの で、寒さの心配もない。
遺愛寺から響いてくる鐘の音は、枕に体を欹えて聴き、香炉峰に降りつもる白雪は、簾を撥ねあげて眺める。
思うに、ここ廬山こそは、俗世間の名利から逃れるのに最もふさわしい土地であり、現在の司馬という役職は、やはり老後を過ごすのに一番適した官である。
心身ともに安らかでいられる処こそ、自分が最終的に落ちつくべき場所なのだ。故郷は何もただ長安だけにあるわけではない。
日高(ひたか)く 睡(ねむ)り足(た)りて 猶(な)ほ起(お)くるに慵(ものう)し 小閣(しょうかく)に衾(きん)を重(かさ)ねて 寒(かん)を怕(おそ)れず 遺愛寺(いあいじ)の鐘(かね)は 枕(まくら)を欹(そばだ)てて聴(き)き 香炉峰(こうろごう)の雪(ゆき)は 簾(すだれ)を撥(かか)げて看(み)る 国廬(きゃうろ)は 便(すなは)ち是(こ)れ名(な)を逃(のが)るるの地(ち) 司馬(しば)は 仍(な)お老(らう)を送(おく)るの官為(くわんた)り 心泰(こころやす)く身寧(みやす)きは 是(こ)れ帰(き)する処(ところ) 故郷(こきゃう) 何(なん)ぞ独(ひと)り長安(ちゃうあん)にのみ在(あ)らんや 日高く 睡り足りて 猶ほ起くるに慵し 小閣に衾を重ねて 寒を怕れず 遺愛寺の鐘は 枕を欹てて聴き 香炉峰の雪は 簾を撥げて看る 国廬は 便ち是れ名を逃るるの地 司馬は 仍お老を送るの官為り 心泰く身寧きは 是れ帰する処 故郷 何ぞ独り長安にのみ在らんや 五架三室の新しいカヤぶきの家 石の階段、カッラの柱に竹のあみ垣。南ののきは日がはいるので冬もあたたかく 北の戸はは風がはいるので夏もすずしい。階段の下の石だたみには飛泉が水滴をとばし 窓ぎわの斜竹はわさと乱雑に植えてある。 来年の春は東のひさしの間を増築し 紙の降子によしずをかけて孟光どのを入れようよ。たけ高い松の木の下で小さい山川のほとりに わたしは斑鹿胎の頭巾をつけ白い葛布の冬着を着ている。薬草畑と茶畑とがわが財産で 野生のシカと林中のツルがわが友だ。雲が谷間から起ってきて衣裳をしめらし 嵐がこの山中のわが家の台所にはいってくるので、わたしのいちばんうれしいのは、泉を一つ引けてそれが 清くすずしくわが家の階段下の石だたみをめぐって流れていることだ。朝日は高くのぼり睡眠も十分なのに起きるのがめんどうだ。このへやではふとんを何枚もかけていて寒くもない。遺愛寺の鐘の音は枕の上のあたまをちょっともたげてきくし 香爐峰の雪もすだれをはねて見るだけだ。ここ廬山こそは俗世間の評判からのがれる土地だし 司馬の職ももともと隠居に適した役だ。心が安泰で身体が安全ならそこが安住の地で 故郷は長安にあるとはかぎってない。 五架(ごか) 三間(さんげん)の新草堂(しんさうだう) 石階(せきかい) 桂柱(けいちゅう) 竹編(ちくへん)の牆(しゃう)。南簷(なんえん) 日(ひ)を納(い)れて冬天(とうてん)も暖(あたた)かに 北戶(ほくこ) 風(かぜ)を迎(むか)へて夏月(かげい)も涼(すず)し。砌(ぜい)に灑(そそ)ぐ飛泉(ひせん)わづかに點(てん)あり 窗(まど)を拂(はら)ふ斜竹(しゃちく)、行(かう)を成(な)さず。來春(らいしゅう)さらに東廂(とうしゃう)の屋(をく)を葺(ふ)き 紙閣(しかく) 蘆簾(ろれん)に孟光(まうくわう)を著(つ)けん。長松樹(ちゃうしょうじゅ)下(か) 小溪(せうけい)の頭(ほとり) 班鹿胎(はんろくたい)の巾(きん) 白布(はくふ)の裘(きう)。藥圃(やくほ) 茶園(さえん) 産業(さんげい)となし 野麋(やび) 林鶴(りんかく) これ交遊(かういう)。雲(くも)は澗戶(かんこ)に生(しゃう)じて衣裳(いしゃう)潤(うるお)ひ 嵐(あらし)は山厨(さんちゅう)を隠(かく)して火燭(くわしょく)幽(かすか)なり。もっとも愛(あい)す一泉(いっせん)あらたに引(ひ)き得(え)て 清冷(せいれい) 屈曲(くつきょう) 階(かい)を遶(めぐ)りて流(なが)るるを。日(ひ)高(たか)く睡(ねむ)り足(た)るも猶(な)お起(お)くるに慵(ものう)し 小閣(しょうこう) 衾(きん)を重(かさ)ねて寒(さむ)きを怕(おそ)れず 遺愛寺(いあいじ)の鐘(かね)は枕(まくら)を欹(そばだ)てて聴(き)き 香鑪峰(こうろほう)の雪(ゆき)は簾(すだれ)を撥(は)ねて看(み)る 匡廬(きょうろ)は便(すなわ)ち是(こ)れ名(な)を逃(のが)るる地 司馬(しば)は仍(な)お老(お)いを送(おく)る官(かん)為(た)り 心(こころ)素(やすら)かに身寧(みやす)きは是(こ)れ帰処(きしょ) 故郷(こきょう)は独(ひと)り長安(ちょうあん)に在(あ)る可(べ)けんや 五架 三間の新草堂 石階 桂柱 竹編の牆。南簷 日を納れて冬天も暖かに 北戶 風を迎へて夏月も涼し。砌に灑ぐ飛泉わづかに點あり 窗を拂ふ斜竹、行を成さず。來春さらに東廂の屋を葺き 紙閣 蘆簾に孟光を著けん。長松樹下 小溪の頭 班鹿胎の巾 白布の裘。藥圃 茶園 産業となし 野麋 林鶴 これ交遊。雲は澗戶に生じて衣裳潤ひ 嵐は山厨を隠して火燭幽なり。もっとも愛す一泉あらたに引き得て 清冷 屈曲 階を遶りて流るるを。日高く睡り足るも猶お起くるに慵し 小閣 衾を重ねて寒きを怕れず 遺愛寺の鐘は枕を欹てて聴き 香鑪峰の雪は簾を撥ねて看る 匡廬は便ち是れ名を逃るる地 司馬は仍お老いを送る官為り 心素かに身寧きは是れ帰処 故郷は独り長安に在る可けんや |