題名: | 咸陽城東樓 |
作者: | 許渾 |
一上高城萬里愁,蒹葭楊柳似汀洲。溪雲初起日沈閣,山雨欲來風滿樓。鳥下綠蕪秦苑夕,蟬鳴黃葉漢宮秋。行人莫問當年事,故國東來渭水流。 | |
英譯: |
High upon the tower, endless sadness stretches before me:
Reeds and willows here recall the southern coastal plains.
Mist rises from the river; the sun sets behind the Pavillion.
Wind fills the tower, heralding mountain rain.
Where the Qin, $and then the Han, first$ built their $palaces and
Pleasure$ gardens,0
00 In the autumn $evening$
Cicadas cry amid the yellow leaves, and birds wing downward to
the verdant wastes.
Fellow journeyer, ponder not these things of yesteryear:
Through this ancient land, eastward flows the River Wei.
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日譯: |
古き都咸陽の高い城壁の上$に建つ東楼$にのぼって眺めやれば、$一面の荒涼たる風景に$わが胸中の愁いは万里のはてまで広がりゆく。オギやアッなどが生い茂って柳の枝が青々としだれるさまは、まるで川辺の砂地のよう$昔の栄華をしのぶ面影さえない$。
$遠くを眺めやれば$、曇が折りしも谷間から湧きおとって、太陽が$西の$高殿のかげへと沈みゆく。山あいからひと雨来ようとして、$まず$風がこの高楼のなかへ$吹きこみ$満ちわたる。
$名も知れぬ野$鳥が舞いおり、日の暮れゆく荒れはてた緑の草
むら、あのあたりにはかつて素の美しい御苑が置かれていた。蟬が黄ばんだ葉かげで鳴く$あの林の$あたり、そこは秋の気はいただよう漢の宮殿の跡。
旅人よ、あの華やかなりし秦漢時代のことは、どうか$この私に$
たずねないでほしい。この敵き都付近にあって永遠に変らぬものは、ただ東へ向かって流れつづける渭水の流れだけであるから。
一(ひと)ぺたび高城(かうじゃう)に上(のぼ)れば 万里(ばんり)愁(うれ)ふ 蒹葭(けんか) 楊柳(やうりう) 汀洲(ていしう)に似(に)たり 溪雲(けいうん)初(はじ)めて起(お)こりて 日(ひ) 閣(かく)に沈(しづ)み 山雨(さんう)来(き)たらんと欲(ほっ)して 風(かぜ) 楼(ろう)に満(み)つ 鳥(とり)は緑蕪(りょくぶ)に下(くだ)る 秦苑(しんえん)の夕(ゆふ)べ 蟬(せみ)は黃葉(くわうえふ)に鳴(な)く 漢宮(かんきゅう)の秋(あき) 行人(かうじん) 問(と)ふ莫(な)かれ 当年(とうねん)の事(こと) 故国(ここう) 東来(とうらい) 渭水(えすい)流(なが)る 一ぺたび高城に上れば 万里愁ふ 蒹葭 楊柳 汀洲に似たり 溪雲初めて起こりて 日 閣に沈み 山雨来たらんと欲して 風 楼に満つ 鳥は緑蕪に下る 秦苑の夕べ 蟬は黃葉に鳴く 漢宮の秋 行人 問ふ莫かれ 当年の事 故国 東来 渭水流る 高い城壁に登ってみたら、万里も離れた故郷のことが思われて、もの悲しい思いが こみあげてきた。目に入ってくる葦や柳の風景が、あまりにもわが江南の浮き洲の様子に似ているのだ。谷川のあたりから雲が湧き起こってきたかと思うと、日は早や西の寺院のあたりに沈んでいく。どうやら山から一雨来そうな気配である。しきりに風が吹きつけて楼上に満ちてきた。秦、漢の時代、栄華を誇った宮苑に秋の夕暮が迫ってくる。緑の草原 には鳥が舞いおり、黄色い葉かげには蟬が鳴いている。旅人よ、昔のことはもう聞かない でくれ。この古い都で昔と変わらないのは、東へ流れていく渭水だけなのだ。 一(ひと)たび高城(こうじょう)に上(のぼ)れば万里(ばんり)愁(うれ)う、 蒹葭(けんか) 楊柳(ようりゅう) 汀洲(ていしゅう)に似(に)たり。 溪雲(けいうん)初(はじ)めて起(お)こって日(ひ)は閣(かく)に沈(しず)み、 山雨(さんう)来(き)たらんと欲(ほっ)して風(かぜ)楼(ろう)に満(み)つ。 鳥(とり)は緑蕪(りょくぶ)に下(くだ)る 秦苑(しんえん)の夕(ゆうべ)、 蟬(せみ)は黃葉(こうよう)に鳴(な)く 漢宮(かんきゅう)の秋(あき)。 行人(こうじん)問(と)ふ莫(な)かれ 当年(とうねん)の事(こと)、 故国(ここう) 東来(とうらい) 渭水(いすい)流(なが)る。 一たび高城に上れば万里愁う、 蒹葭 楊柳 汀洲に似たり。 溪雲初めて起こって日は閣に沈み、 山雨来たらんと欲して風楼に満つ。 鳥は緑蕪に下る 秦苑の夕、 蟬は黃葉に鳴く 漢宮の秋。 行人問ふ莫かれ 当年の事、 故国 東来 渭水流る。 |