題名: | 登香爐峰頂 |
作者: | 白居易 |
迢迢香鑪峰,心存耳目想。終年牽物役,今日方一往。攀蘿蹋危石,手足勞俛仰。同遊三四人,兩人不敢上。上到峰之頂,目眩神怳怳。高低有萬尋,闊狹無數丈。不窮視聽界,焉識宇宙廣。江水細如繩,湓城小於掌。紛吾何屑屑,未能脫塵鞅。歸去思自嗟,低頭入蟻壤。 | |
英譯: |
Up and up, the Incense-Burner Peak!
In my heart is stored what my eyes and ears perceived.
All the year-detained by official business;
To-day at last I got a chance to go.
Grasping the creepers, I clung to dangerous rocks;
My hands and feet-weary with groping for hold.
There came with me three or four friends,
But two friends dared not go further.
At last we reached the topmost crest of the Peak;
My eyes were blinded, my soul rocked and reeled.
The chasm beneath me-ten thousand feet;
The ground I stood on, only a foot wide.
If you have not exhausted the scope of seeing and hearing,
How can you realize the wideness of the world?
The waters of the River looked narrow as a ribbon,
P'ēn Castle smaller than a man's fist.
How it clings, the dust of the world's halter!
It chokes my limbs: I cannot shake it away.
Thinking of retirement, I heaved an envious sigh,
Then, with lowered head, came back to the Ants' Nest.
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日譯: |
高くそびえる香爐峯のことは、いつも考え見聞きするたびに思っていた。一年じゅう職務に拘束され、今日はじめて行くことができた。 ツタにとりすがりころげる石をふみ、手も足ものぼりくだりで疲れた。同行は三、四人だったが、そのうち二人は途中でへばった。絶頂までのぼると、目がまい心も茫然とした。 高さ数万尺で、ひろさは数丈しかない。しかし遠くを見きわめて、はじめて字宙の広大なのがわかるのだ。揚子江も繩のように細く見え、潯陽の町はてのひらよりも小さい。 ぼくときたらなんとこまかいことだ、俗事から自由になれないで。 いま下山しながら自分で嘆く、下をむいて蟻の穴にはいりゆくと。
迢迢(てうてう)たり香爐峯(かろうほう)、心(こころ)に存(そん)し耳目(じもく)に想(おも)ふ。年(とし)を終(をは)るまで物役(ぶつえき)に牽(ひか)かれ、今日(こんにち)はじめて一(ひと)たび往(ゆ)く。蘿(ら)を攀(よ)ぢて危石(きせき)を蹋(ふ)み、手足(しゅそく) 俯仰(ふぎゃう)に勞(らう)す。同遊(どういう) 三四人(さんよにん)、兩人(りゃうにん)はあへて上(のぼ)らず。 上(のぼ)りて峯(みね)の頂(いただき)に到(いた)れば、目(め)眩(くるめ)き神怳(しんきゃう) 怳(きゃう)たり。高低(かうてい) 萬尋(ばんじん)あり、闊狹(くわつけふ) 數丈(すうぢゃう)なし。視聴(しちょう)の界(さかひ)を窮(きは)めずば、いづくんぞ宇宙(うちう)の聞(き)きを識(し)らん。江水(かうすい)は細(ほそ)きこと縄(なは)のごとく、溢城(ぼんじゃう)は掌(たなごころ)より小(ちひさ)し。紛(ふん)としてわれなんぞ屑屑(せつせつ)たる、いまだ塵鞅(ぢんあう)を脱(だつ)する能(あた)はず。歸(かへ)り去(さ)り思(おも)ひて自(みづか)ら嘆(なげ)く、頭(かうべ)を低(た)れて蟻壤(ぎじゃう)に入(い)ると。 迢迢たり香爐峯、心に存し耳目に想ふ。年を終るまで物役に牽かれ、今日はじめて一たび往く。蘿を攀ぢて危石を蹋み、手足 俯仰に勞す。同遊 三四人、兩人はあへて上らず。 上りて峯の頂に到れば、目眩き神怳 怳たり。高低 萬尋あり、闊狹 數丈なし。視聴の界を窮めずば、いづくんぞ宇宙の聞きを識らん。江水は細きこと縄のごとく、溢城は掌より小し。紛としてわれなんぞ屑屑たる、いまだ塵鞅を脱する能はず。歸り去り思ひて自ら嘆く、頭を低れて蟻壤に入ると。 |