題名: | 詠懷古跡五首 四 |
作者: | 杜甫 |
蜀主窺吳幸三峽,崩年亦在永安宮。翠華想像空山裏,玉殿虛無野寺中。古廟杉松巢水鶴,歲時伏臘走村翁。武侯祠屋常鄰近,一體君臣祭祀同。 | |
英譯: |
THE Lord of Szechwan, when he led an expedition against Wu, visited the three gorges.
In the year of his death he was living here in the palace of “Endless Peace.”
One can imagine his kingfisher-blue banners winding through the lonely hills;
His jade palace has come to nothing and the site is now a tumbledown monastery.
Pond herons build their nests in the pine and cypress that surround its old courts;
Winter and summer at the due seasons you only see the old man of the villages wandering about the shrine;
The sacrificial halls of Chu-ko Liang lie for ever close to those of his master;
So in one spot they sacrifice to the prince and his loyal minister together.
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日譯: |
蜀(しょ)の先主(せんしゅ)劉備(りゅうび)は、呉(ご)の孫権(そんけん)をひそかに攻(せ)めようとして、三峡(さんきょう)の地方(ちほう)に軍(ぐん)を進(すす)めて行幸(みゆき)したが、崩御(ほうぎょ)の年(とし)にもまた、三峡(さんきょう)の地(ち)の永安宮(えいあんきゅう)におられたのだった。
天子(てんし)の御旗(みはた)がこの人(ひと)の気配(けはい)のないさびしい山(やま)の中(なか)に、立(た)っていたさまを想像(そうぞう)してみるのだが、美(うつく)しくりっぱな宮殿(きゅでん)であったろう永安宮(えいあんきゅう)は、今(いま)は野(の)の中(なか)の寺(てら)となって、空(むな)しく何(なに)も残(のこ)されてはいない。
劉備(りゅうび)を祭(まつ)る古(ふる)びた廟(びょう)の杉(すき)や松(まつ)には、こうづるが巣(そう)くっており、四時(しじ)の祭(まつ)りの時(とき)には、夏(なつ)も冬(ふゆ)も、村(むら)の老人(ろうじん)たちが、忙(いそが)しく動(うご)きまわって準備(じゅんび)している。武侯(ぶこう)諸葛亮(しょかつ りょう)の廟(びょう)の建物(たてもの)は、永久(えいきゅう)にそのそば近(ちが)くにあり、一心同体(いっしんどうたい)のこの君臣(ぐんしん)の間柄(あいだがら)として、今(いま)もその祭(まつ)りが同(おな)じように行(おこな)われているのだ。
蜀の先主劉備は、呉の孫権をひそかに攻めようとして、三峡の地方に軍を進めて行幸したが、崩御の年にもまた、三峡の地の永安宮におられたのだった。 天子の御旗がこの人の気配のないさびしい山の中に、立っていたさまを想像してみるのだが、美しくりっぱな宮殿であったろう永安宮は、今は野の中の寺となって、空しく何も残されてはいない。 劉備を祭る古びた廟の杉や松には、こうづるが巣くっており、四時の祭りの時には、夏も冬も、村の老人たちが、忙しく動きまわって準備している。武侯諸葛亮の廟の建物は、永久にそのそば近くにあり、一心同体のこの君臣の間柄として、今もその祭りが同じように行われているのだ。 蜀主(しょくしゅ) 呉(ご)を窺(うかが)ひて三峡(さんきょう)に幸(こう)し 崩年(ほうねん)も亦(ま)た永安宮(えいあんきゅう)に在(あ)り 翠華(すいか)想像(そうぞうす) 空山(くうざん)の裏(うら) 玉殿(ぎょくでん)虚無(きょむ)なり 野寺(やじ)の中(うち) 古廟(こびょう)の杉松(さんしょう)に 水鶴巣(すいがくす)くひ 歲時(さいじ)の伏臘(ふくろう)に 村翁(そんおん)走(はし)る 武侯(ぶこう)の祠屋(しおく)に 常(つね)に隣近(りんきん) 一体(いったい)の君臣(くんしん) 祭祀(さいし)同(おな)じ 蜀主 呉を窺いて三峡に幸し 崩年も亦た永安宮に在り 翠華想像 空山の裏 玉殿虚無なり 野寺の中 古廟の杉松に 水鶴巣くい 歲時の伏臘に 村翁走る 武侯の祠屋に 常に隣近 一体の君臣 祭祀同じ 蜀主劉備は東呉を伐たんと この三峡に出でましたが 戦勝たず白帝城の 永安宮にみまかっ 翡翠の御旗飄るを 空山の中に想いみれど 玉殿のあとは消えて いまはただ野寺の中 古廟の松杉に鶴巣くい 年々夏冬には村の翁が ここに集うて祭りする 武侯の嗣堂もそば近く 君臣水魚の交わりの そのありし日をそのままに 同じ祭りを受けたもう 蜀主(しょくしゅ)呉(ご)を政して三峡(きょう)に幸(こう)す 崩(ほう)ずる年(とし)亦(また)永安宮(えいあんきゅう)に在(あ)り 翠華(すいか)想像す空山(くうざん)の裏(うら) 玉殿(ぎょくでん)虚無(きょむ)たり野寺(やじ)の中(うち) 古廟(こびょう)杉松(さんしょう)水鶴巣(すいがくす)くい 歲時(さいじ)伏臘(ふくろう)村翁(そんおん)走る 武侯(ぶこう)の祠屋(しおく)長(とこしなえ)に隣近(りんきん) 一体(いったい)の君臣(くんしん) 祭祀(さいし)同じ 蜀主呉を政して三峡に幸す 崩ずる年亦永安宮に在り 翠華想像す空山の裏 玉殿虚無たり野寺の中 古廟杉松水鶴巣くい 歲時伏臘村翁走る 武侯の祠屋長に隣近 一体の君臣 祭祀同じ |